コラム-088:UpToDate : 高Ca血症の心電図での、QT/QTc短縮となるロジックと、その限界性 from コラム-009
◎高カルシウム血症は、カルシウム値自体が治療対象です。心電図所見は、その気付きにすぎません。
そもそも、QT/QTc短縮の定義は?
【心臓突然死の予知と予防法のガイドライン:2010年改訂版 p-10】
{これまで QT 短縮の明確な定義はなされていないが,
QT 時間の正常下限を 330ms(小児では 310ms),
QTc を 360 ~ 380ms とすることが提案され,
また健常人の99%は男性がQTc>360ms,
女性がQTc > 370ms を示すことが報告されている}
(2018/1/28現在、このGuidelineは、まだ更新されておりません)
QT/QTc短縮の定義が、ないんですね。困りました(-_-;*)。
QTc<400msは、ジギタリス投与中か高Ca血症を疑え!と書いているのもありましたが、我々の高Ca血症の症例では、400ms以上がありました。どだい、見た目にQT短縮!とわからないと、ERや外来では役に立ちませんよね。悩ましい。QT/QTcが短縮する理屈は、以下の様になります。
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◎ 細胞外Ca濃度が上昇すると、第2相での内向き電流が加速されます。
◎ よって、活動電位第2相の時間が短くなる=QT時間の短縮に繋がります。
実にシンプルで、分かりやすいロジックです。
逆に低カルシウム血症だと、QT時間は延びるはずです。(これは、見ますね)
でも、現実には、そうならないことの方が、圧倒的に多いようです。
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原因として、QT/QTc時間のゆらぎが、大きすぎることがあります。
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● QT時間は個体差が大きい。
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● 個体差をのりこえるほどの影響は生じにくい。
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● 同じ心拍数でも昼夜差がある。
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● 同じ心拍数でも、交感神経と副交感神経のバランスが一定でないことも関与している。
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● 以前の心電図と比較しても限界がある。
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お師匠様から以前、上記の事を教わりました。
ECG-287で、典型的と云えるQT短縮を呈した(と思われる)心電図を得ました。高Ca血症で、フラフラ・食思不振・脱水だったにも関わらず、心拍数が54bpmと、安定していました。
更に、ほぼ同じ心拍数で、カルシウム値が正常化した心電図が、入手できて比較しました。
なるほど、QT時間が短縮はしていますが、比較してようやく違うかな、と思える程度です。
クリックすると、ECGが拡大します。
なお、高カルシウム血症とは関係ありませんが、遺伝性疾患でQT短縮症候群があり、VT/Vfなど致死的不整脈が発生しやすいようです。日本では、数えるほどしか症例がないようですけれど。
ここからは、QT時間の計り方・その問題点です。だんだん、QT時間の問題と関わることが、いやになること請け合いです!
それでも、知りたい方のみ、お付き合い下さい。
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It`s a long way to QTc measurement
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1.) 基線の安定した心電図でないとダメ!測定出来ないし。
2.) T波が高く、基線との分岐点が明瞭な誘導を選ぶ。
→たぶん、V2-4になります。
→T波は、陽性/陰性どちらでも良い。
3.) 以下の図のように基線とT波下行脚の交差点を求める。
→QT間隔は、QRS起始部からT波の終末まで:と、定義する
→目測で、きちんと測定すべし!と研究者は云います。
→下手に計ると、バラツキは大きくなりますから、要注意です。
Bazettの補正式:( QTc=QT/√RR )
4.) 心拍数補正の式は沢山あります。
→でも、結局利用されるのは、Bazettの式です。
→その限界性は、どの本にも書いてありますが。。
→http://new.jhrs.or.jp/pdf/education/akiyamalecture14.pdf
→上記のp-226を、ご覧あれ。
6.) 心拍数=60bpmから、離れるほど(頻脈も徐脈も)QTcの信頼性が、
がた落ちします。
7.) なお、せっかく測定しても、QTcを変動させる因子は多様です。
→年齢・性差・人種差
→投薬・Pacing・脚ブロック
→日内変動・日差変動・体温・電解質異常・交感神経の緊張
8.) QT時間が短い集団でも、疫学的には死亡率が高まる訳ではない。
→Vt,Vfが起きて、QT時間が短い(<360ms)・高Ca血症がない
場合に、QT短縮症候群として、心配する。
【 目で見て明らかなQT延長・短縮時に、立ち止まって考える 】
【 無症状でギリギリのQTc変動を、悩んでも利得は少ない 】
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