ECG-054:answer
すいませんが、長い解説にお付き合い下さい。
この心電図は、明らかに前壁の虚血を示しています。
V1-3に認めるq波がそれです。
通常、心室中隔は左室側→右室側へと、興奮が進みます。そのため、小さなr波が出現します。そこに、q波があること自体、変なんです。先天性心疾患などによる肺高血圧で、幅広いQ波が出現することもありますが、これは他の情報(ex.心エコー)で、わかります。
問題のひとつは、この心電図だけでは、陳旧性心筋障害と読む方が素直なパターンだと、云うことです。臨床情報なしならば、私は、陳旧性の前壁梗塞として、処理したと思います。
でも今回は、激烈な胸痛発作後です。ACSとして、取り扱う必要があります。心電図異常も、臨床的文脈で解釈しましょう。この症例は、しかし経過観察入院となっていました。次に経時的心電図変化を、示します。
2時間後の心電図です。
V4-5で、わずかですがT波の陰転が出現しています。
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6時間後の心電図です。
V4-6のT波陰転が、よりはっきりしてきました。この短時間でST-Tが変化したこと自体が、ACSの所見です。V1-3も、q波から、QS patternに変化しつつあります。
この段階で、PCI施行が決定されました。LAD Seg-7の病変を治療しています。
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発症後4日目(post-PCI)の心電図です。
V1-4がきれいな QS pattern となっています。胸部誘導でST上昇もあります、冠性Tもあります。できあがりのLADの心筋梗塞ですね。
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一ヶ月後の心電図です。
冠性T波が、わかりやすくなっています。
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1年後の心電図です。
なんと、ほぼ正常化しています。経過観察の心カテでも、再狭窄は認めませんでした。心エコーでの左心機能も、良好でした。PCI開始まで、症状出現から20時間ほどかかっていた症例ですが、見事な改善です。ここまで、よくなる症例は、そう多くはありません。幸運の持ち主です。禁煙されています。
【Q波は、心筋の電気的静止状態であり、壊死とは限らない】
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長文失礼しました。