ECG-284 : answer(2/2)
60才代男性です。胸部不快発作での搬入でした。
Diagonal branch(D1)のACSです。
PCIを選択しました。
その前後の心電図を、時系列で表示します。
クリックすると、ECGが拡大します。
血液検査結果の時系列表です。
CPK値は正常値の二倍程度ですが、トロポニン-I値は、著増しました。(なお、今回より、Tn-I値は、pg/mLと変更されました。値が大きくてビックリですね。)
カリウム値は正常範囲内です。Tall-T波は、やっぱり虚血で説明されます。
PCI前後のCAG像です。
LADとLCXの間が、血管に乏しいのに、お気づきですか。
LAD本幹(#6)とDiagonal branch(D1)へのPCIが行われてます。
けっこう、大きなD1です。
真の虚血部位の判定のために、ダブル・シンチグラフィを行いました。
*タリウムシンチで、虚血部位(心筋血流低下)を軽度である事を、確認しました。
*ピロリン酸シンチで、急性期の心筋壊死部位を同定する。
対角枝領域のACSであることが、理解出来ます。
さて、PCIの戦略です。
#6の有意狭窄を認めます。
D1は、明らかなflow delayを呈しています。
LAD本幹を放置して、D1へのPCIのみは、行えませんね。
a.) LAD本幹のdelayがないので、撤退して保存的加療とする。
b.) 大きなD1であり、#6も危ない病変。緊急でのPCIヘ、
b.を選択です。
なお、D1は直径2.0mm以下でした。
c.) LADへのstent留置と、対角枝のD1-2へのPCIを施行する。
→出来るだけ広範囲の心筋をsalvageする。
d.) LADへのstent留置と、対角枝のD1-1へのPCIを施行する。
→閉塞したD1-1の心筋をsalvageする。
e.) LADへのstent留置と、D1-1,D1-2へのPCI(POBA)を施行する。
我々は、結果としてe.を選択しております。
(皆様方は、どうなさるでしょうか?)
#6を拡げると、案の定D1は閉塞しました。もちろん、guidewireをprotectでD1に留置しました。
LAD, D1-1, D1-2へ、複数回のballooningが施行されています。分岐部では、KBTも当然なされています。
とっても大変でしたと、施行医は云っておりました。
おかげで、梗塞範囲も極小で済んだわけです。
最終的に、D1に狭窄を残すも、flow delayのない状況を作り上げました。
さて、もしD-1の径が2.0mm以上あった場合に、stent留置をどうするのか?でdiscussionとなりました。
この症例の相談をした大阪のS先生(私の師で有り、友です)のコメントを紹介します。
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CAGの病変的には急性期であってもLAD-D1のmini-crushをしただろうと思います。そのときのD1のstentingするのはLADに並行して走行し完全閉塞しているD1-1ではなく、灌流域が大きくてdelayになっているD1-2の方です。なので、femoralから3本wireをLAD,D1-1 D1-2に入れて、D1-1とD1-2を処理した後にLADとD1-2に2 stentでしょうか。その際、D1-1がD1-2へのstentingで閉塞すればドツボにハマりますが、、、、、、難しい症例ですね。
とはいえ、PCI前のD1の還流域を見ると、D1-1はLADと並走しているのは予想できますので、バルーンで広げるのは広げますが、D1-1にはあまりこだわらないかもしれません、私なら「治療の主対象は還流域の広いD1-2で、それにきれいにstentingするにはLADにも手を出さざるを得ない」という姿勢で、やはり「LADとD1-2のmini-crush」で臨むと思います。何れにしてもem-PCIは当然やると思います。
1. 「D1-1が閉塞していてもsharp TだけでST上昇がない or 顕著でない」かつ「LAD本管とほぼ平行に走っている、いわゆるdouble LAD」→D1-1はそれほど重要な枝ではない→やはり還流域の広いD1-2を死守すべきと思える。
2. D1-1とD1-2の還流域でD1の根元の血管径が2mmというのはありえるのだろうか。2.75mm、せめて2.5mmはないだろうか。それならばD1はstentingの適応になってもいいと思える。
ということで、やはり私なら「LADとD1-2の2-stenting」をやってしまいそうです。
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我々は、結果としてD1-1,D1-2ともにPOBAでの拡張に、一応成功しましたが、欲張って冠閉塞のリスクもあったと思われます。慎重な経過観察が必要ですね。
今回の心電図的教訓です。
【 胸痛症候群では、短時間での心電図変化を丹念に読み取ろう! 】