ECG-211:answer
50才代男性で、耐糖能異常と脂質異常症を持っており、未治療状態での、繰り返す胸痛発作で、ER受診でした。受診時は、持続性の胸痛となっています。
まず最初に、PCIの結果(=結論)を提示します。
Door to Balloon timeは、ぎりぎりで90分を切りました。
前下行枝(LAD)の#6で、完全閉塞でした。
スムースな拡張とstent留置に成功しております。
最終的に、最高のCPK値は500程度、トロポニン-Iは18程度でした。
PCI直後の心電図を提示します。
尖っていたV2,3のT波が、穏やかになっています。
II,III,aVFでのST低下が基線に戻り、III誘導の陰性T波が消えました。V5,6のST変化も無くなりましたね。
確かに、PCI前後で、心電図は変化しました。
問題は、ERの心電図が、あなたに(これは危ない心電図だ!)とアラームを鳴らしたか?否かです。どうでした?
心電図だけを見たとき、如何だったでしょうか?
確かに、V2,3の尖りT波が気になりますが、V1が動いていません。他の誘導の変化も気になりますが、もしかしたら、元々の変化かもしれません。一番良いのは、安定期の心電図との比較ですが、この症例は、ER初診(=飛び込み)症例でした。
急いで聴取した病歴とvital signを加味して心電図を読んだら、解釈はどう変化したでしょうか?
レッドフラッグが立った男性の胸痛です。ACS否定から、まず診断を下す必要があります。
V2,3の尖りT波は、がぜん超急性期のACS心電図所見に思えてきます。II,III,aVFのST-T変化は、そのミラーイメージか??
ところで、aVRのST変化はなく、V1のST変化もちょっと微妙です。LAD病変ならば、V1ももっと大きく動いて欲しいところです。
もしかして、タコツボ心筋症?なんて、思ってしまいます。
実は、こういう時こそ心エコーなんです。これがLADのACSならば、前壁中隔の壁運動は、必ず障害されています。今、胸痛が起きてるんですから。
その壁運動障害が、LAD-ACSか?タコツボ心筋症か?心エコーの熟練者でも迷うことはあります。
その場合でも、緊急の冠動脈造影で、白黒つけるしかありません。ACSのリスクがあれば、確かめに行くしかありません。
ここで、前回の症例の教訓を思い出しましょう。
【 aVRでST低下せず、かつV1でST上昇するならば、それはタコツボ心筋症ではありません! 】
つまり、aVRでST低下せず、V1のST上昇がハッキリしないからと云って、たこつぼ心筋症と決め付けも出来ないんです。
LAD(#6)の完全閉塞で、わりと近位部です。正直云って、V1のSTも上昇して欲しかった。。
なお、心電図変化を経時的に追ったのが、次の図です。
PCI後2日目に、V2,3の biphasic T =二相性T波を呈しました。
いわゆる、Wellens syndromeです。
この波形を呈する場合には、ACSに移行する事が多い!と云われています。
「ACSになった後に、出てくるなんて、約束が違うじゃないか!」
はい、次のコラムでご説明しましょう。
追記:なお、この症例では入院5日目の心エコーでは、左室壁運動が完全に正常化しておりました。ER時点との比較でぜひ提示したかったのですが、どたばたしたERでは、eye-ball確認(=目視)のみで、動画記録が残っていませんでした。とほほ。。
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