ECG-242:answer
WQRSTの緊急診断です。
波形としては、VTとしか思えません。でも、なんかおかしい。
ERでの心エコーでは、心尖部が瘤様に見えました。
心電図を、落ちついて解析してみましょう。
* RRは、けっこう不整です。
* P波が見えません。
* II, III, aVF に、flutter波様の波形有り。
* ベースのリズムは、心房粗動と考えました。
* Wide-QRSは、CRBBBパターンです。とても幅広いです。
* ST-T変化としては、V1-3でのST低下は著明です。
* aVR のST上昇は、とても気になります。
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胸痛とこの異様なwide-QRSからは、ACSを想起します。LMT病変を念頭に起きつつ、心カテ室へすぐに移動です。
この途中でモニター心電図上のQRS幅は、narrowとなっています。
なお、リスモダンとメチルジゴキシンの血中濃度は、低値で薬物中毒としての心電図変化は、考えにくいですね。
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心カテ室に入室直後の心電図です。(PCI前です)
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心エコーでは、心尖部に小さめの瘤を形成していました。
Narrow-QRSと、V2-4 でのST上昇を認めます。
II, III, aVF とV5,6 で、ST低下を示します。
aVR のST上昇は、続いていますね。
この段階では、LADの遠位部か、対角枝の梗塞を、心電図からは予想します。(LMT病変は、考えにくい)
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PCI前の冠動脈造影です。
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LAD,#7での完全閉塞です。かなり遠位側ですね。
RCA, LCXは、問題を認めません。
この部分だけの虚血で、搬入時のようなwide-QRS(CRBBB型)が出現するのは、ちょっと考えにくいのですが、実際に起きました。
今回の教訓は、
【 flutterを伴う心室内変行伝導では、VTと見間違うことあり 】
【 wide-QRSでは、心電図以外の所見がACSの有無を判定に重要となる 】
PCIにて、#7の再疎通に成功しstent留置しました。直後の心電図です。
V2-4 でのST上昇は、改善を示しています。ミラーイメージのST低下も温和しくなりました。aVR のST上昇も、同様です。
今回の経時的心電図波形の時系列です。
突然の胸痛・一過性意識障害で、70才代女性が搬入されました。一瞬VTを思わせる心電図です。異様なwide-QRSと aVR のST上昇。心尖部に心エコーで心室瘤を認める。ACS前提で、緊急心カテに入りました。
カテ室では、wide-QRSがすでに治っており、その後PCIは成功しました。
後日談としては、発作性のAFL,Pafが治らずに、カテーテルアブレーションを他院で施行して頂きました。
搬入時の心電図が、ACS診断にとって撹乱因子となることが、時々あります。このような場合にも、これだけ悪いのはACSによるのか?との発想を捨てずに、対応しましょう。
【 胸痛は、ACSでないと確信できるまで、ACSとして扱う 】
ER診療の鉄則ですね。
胸痛で、時に解釈に困る心電図にぶち当たることがあります。慌てずに、しかし丁寧に対応して下さい。
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