【コラム-034】:ECG-147の症例の解説(ACSの心電図診断)
ACS(Acute Coronary Syndrome)は、冠動脈の(落盤事故)と考えると、わかりやすいかと、思います。
冠動脈内皮下に、変性LDLコレステロールが蓄積します。これを処理しようとして、食べきれずに死んでしまった単球の類が崩壊して、融解酵素をぶちまけて、破綻したのが、ACSです。
このECG-147の症例では、前下行枝の急性閉塞が起きています。
再疎通後のCAGを見るとわかりますが、対角枝(D1)・大きな中隔枝を含む前下行枝(seg-6)での大きな虚血が発生していた訳ですね。
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不完全閉塞時は、狭心痛で済んでいたのですが、完全閉塞となり、ST上昇を起こしました。なお、緊急冠動脈造影では、RCAからの側副血行路が、認められません。放置すると、より虚血域が拡がりやすいパターンでした。
幸い=と云っては何なんですが=VfはERに来てから起きており、緊急処置ができています。搬入前の急性心筋梗塞死亡の大半は、市中でのVfです。急性心筋梗塞の2割程度が、病院まで、到着できません。
この症例を、不安定狭心症のレベルで、事前に認知して、加療できなかったか?
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◎ リスクファクターを抱えた男性で、胸苦しさ⇒狭心症を考えて、
すぐ受診へ!
これは、市民教育のお話しとなります。
リスクとは、高血圧・脂質異常症・肥満・喫煙・男であること(トホホ) etc.
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◎ 受診した場合、丁寧な(しつこい)胸部不快感の問診を行う。
ERでは、正直大変な作業です。
インフルエンザ流行期に、10冊カルテの山を後ろに抱えて、丁寧な
問診をするのは、とてもプレッシャーですから。
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◎ 心電図・心筋酵素・心エコーでの評価を行う。
これに問題がないから、ACSでない!と云えないところが、注意点です。
この症例も、ST上昇した二度目に受診時にすぐ行った採血では、トロポ
ニンはまだ陰性でした。
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◎ 経時的に、心電図・心筋酵素値を、追いかける。
胸痛発作の患者は、帰さずに、来院直後・3時間後・6時間後と異常値が
出現しないか、追跡し続ける。
=云うは簡単ですが、やるのはとても大変です。医療側も患者もです=
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いろいろな条件が、判断を左右します。
他に患者さんがおらず、本人も望めば、じっくりと観察できます。(お金もかかります)
急患/CPA患者で、ごたついていて、患者さんも明日の事情を優先すると、じゃあ自宅で経過観察、となりがちです。
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この症例で、後でお聞きすると、数ヶ月前より、なんとなく胸部違和感が出現していたようです。それが、最近だんだんとひどくなって来たようなんです。
お仕事は、「大将!いつものお願いね。」「はーい、いつものね。」風のおおらかな飲食業の方でした。急に仕事を止めると、お客さんにも、取引先にも、ご迷惑かけるので、すぐに入院と云えなかったのでした。私も、夜中に緊急人々と云われれば、すぐに自分の患者さん達や同僚のことが、頭に浮かんでしまいます。
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そういう中で、できるだけベターな選択をしていくのが、ERの現場となります。
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