ECG-301:answer
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結論を先に述べます。
PSVTを念頭に、ATP 10mgの one shot 静注を行いました。(静注後に、生食でフラッシュを行います)
◎これで治れば、PSVT
◎RRが延長する事で、Atrial flutter, rapid-Afib.等の鑑別が出来る。
上記のロジックで、ATPを静注しつつ、12誘導心電図記録を行いました。
クリックすると、ECGが拡大します。
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ATP静注後に、洞停止・RR延長が認められます。経時的にしだいに回復し、P波とそれに続くQRS出現です。そのすぐに80bpmくらいの同調律波形に戻っております。Flutter波やfibrillation波は、認められません。
結果、PSVTと診断しております。
すぐに答えが欲しかったので、ワソラン(ベラパミル)の緩徐静注は行いませんでした。
実にシンプルな対応です。普通は、この思考ででいいんです。
その背後で、どのような考察が頭を瞬間的によぎったのか?再録します。
クリックすると、ECGが拡大します。
頻脈発作は、wide QRS tachycardiaか、narrow QRS tachycardiaか、でまず分けて考えましょう。
この症例は、明らかにnarrow QRSです。
なお、12誘導心電図で確認します。1誘導モニター画面では、QRS幅はよく誤認します。
では、鑑別です。narrow QRS tachycardiaでは、
⭕️ 洞性頻脈
⭕️ 頻脈性心房細動
⭕️ 心房粗動(2:1 or 1:1の房室伝導)
⭕️ 発作性上室性頻拍
=洞性頻脈=
160bpm以上の頻拍です。この年齢で、これだけの洞性頻拍になれません。
(年齢別予測心拍数)の式
* 220 - 年齢 80才として、 140bpm
* 205.8-年齢×0.685 80才として、 125bpm
最もこれは、経験式に近く、誤差はあるようです。
P波も確認できず、洞性頻脈は、却下。
=頻脈性心房細動=
これは、よく間違います。
RRの不整は、頻脈の場合に見えがたいものです。長めの記録をしてRR不整をの有無を、見極めて下さい。
この症例では、RR不整ありませんね。
=心房粗動(2:1 or 1:1の房室伝導)=
心房粗動の2:1伝導としては、心拍数がちょっと速すぎる。
心房粗動の1:1伝導としては、心拍数が遅すぎる。
のこぎり波の有無が決め手ですが、う~ん、よく見えません。
洞調律時に陽性T波が、頻拍時に全て陰性T波になれば(特に II,III,aVF で)flutter波の可能性がありますが、もともと陰性気味ですね。
AFLかは、判断保留としました。
=上室性頻拍発作=
PSVTは、以下の様に分類されます。
◎AVNRT(atrio-ventricular node reentrant tachycardia)
房室結節周囲の速い伝導路( fast pathway)と、遅延伝導路(slow pathway)で、ぐるぐるリエントリーする上室性頻脈発作
◎AVRT(atrio-ventricular reciprocating tachycardia)
WPW症候群で発生する発生する上室性頻脈発作。ケント束と房室結節で、グルグルとリエントリーする。
この二つで、PSVTのほぼ90%位だそうです。
◎IART(intra-atrial reentrant tachycardia)
心房内で(異常に)発火する上室性頻脈発作。解説略。
◎SART(sino-atrial reentrant tachycardia)
洞房リエントリー性頻脈。
現実的には、AVNRT か AVRTなのか、の鑑別です。
さらに、初期治療の段階では、ATPかベラパミルの投与なので、治療行為としては、同じです。
この上室性頻拍では、逆行性のP波はよく見えません。AVNRTが一番しっくりきました。ATPで停止していることも、それを支持してくれます。
この症例は、お元気であれば、カテーテルアブレーション治療の対象ですね。アブカテの医師は、12誘導心電図のみで最終決定は行いません。とんでもない例外や短絡路が複数の症例もあるからです。電気生理学的に、きっちりと勝負されるようです。
【 上室性の頻拍診断では、しょせん12誘導心電図と、限界性を心得るべし! 】
【 しかし、逆行性P波の判定に留意します 】